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伝承/無法地帯のフロンティア
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危険地帯「現実をしっかり見ることだ。あの岩々や金属体は、雨あられと降り注いでくるおそれがある。こっちからの制御は不可能だ。何でもありな現場だな。犯罪の根絶もできそうだ。法律を一切なくせばいい。唯一絶対の正義についても教えてやろうか?7番目のラッパが鳴ったらな。 "じゃ、行くぞ。気をつけてな。頭は旋回砲に、手は柄に。うすうす感じてるだろうが、この視線...殺る気満々で細めた目から出てるっぽい眼光が、お前さんの心臓か頭を狙ってる。もしくは顔に泥を塗るのを狙ってる。 "それからトリビア。今こうやって歩いてんのは血まみれの大地だ。この岸辺は、言ってみれば廃墟だ。ここに住み着こうとした奴らもいたからな。つかの間のフロンティアだった。失われた時代ってやつのまさに暮れ時、希望がひっくり返ってただの休憩所になっちまった。しかも人生の最期に一回しか使えねーじゃねえか、墓場って。 "たまに、姿は見えないがこの世のもんじゃない叫び声だか木霊が聞こえるって奴がいる。怖がる必要は無え。だいたいサポーターが屈伸運動してるとか、古い機械部品がそよ風で軋んでるとか、石とあと何かがすり潰されて叫んでるとか、誰かが警告を発してるとか、そんなとこだ。 "本繋留地、砂州複雑にして安全と言えず」 C.C.ラグランジュ訳『フォールンの書ーー「入り組んだ岸辺」に関する覚え書きと観察』より抜粋 「これは本当にフォールンの書か?誤訳じゃないのか?」ーーケイド6 汝、舌で心を折る者よ「こんな所でも、囁きは耳を離れない。おぼろげだが、確かに聞こえる」 あるドレッグが落ちた。なすすべ無く、あとは死を待つばかりだ。そこへ、救済に向けて針路をとった「元」海賊がいた。彼にもかつて、エーテル欲しさに共に月へ乗り込んだ仲間たちがいたから。けれど現実は甘くなく、救われたのは片方だけだった。 ヒラクス、小さき者よ。ヒラクス、臆病なる者よ。弱者はヘルマウスの奥底に失われた。生なき者の留まる虚ろに、ひとりの漁り屋が住んでいる。彼がなぜ生きながらえたか、未だに語られたことはないが、それはきっと奇跡に奇跡が重なったーーヒラクス自身にしか知り得ない物語だ。 秘密をひとつ挙げるなら、彼のその強さだろう。 劣等生でか弱くて、哀れで惨めなヒラクスは、地獄の洞から出てきたときには確たる変貌を遂げていた。フォールンであることに変わりはない。孤独であるのも同じだ。しかしその目で見たもの、学んだものが悉く彼を変えた。内向の影はなりを潜め、想像を絶する全き悪夢の只中を、陶然としてふわりふわりと彷徨っている。 ヒラクスは苛酷な土地に身を隠し、ワールドグレイブに関する謎を調べ上げることに時を費やしているのだ、と言う者もいる。またある者は、いいや奴は憎き神殿を睨みつけるうち、えも言われぬ嫌悪感の中に、真実を告げる囁き声を奈落の底から聞いたのさ、などと勘繰ってみせる。 彼だけが真相を知っている。それは単純であり、同時に難解だ。彼らの推理は当たっていたのだ...どちらとも!ヒラクスは調べていた、ワールドグレイブのことを。ヒラクスは聞いていた、その囁く微かな声を。ただ双方とも、その後の出来事がすべて起こってからだった。 下層民たるドレッグが階級制度を逸脱し、バロンとして立ち上がることは、容易く起こせる行動ではない。けれどさらにあり得ないのは、フォールンらがそれぞれの地位を顧みず、自分たちの知らされている世界と、もっと上の階級が見ている地平を隔てる知のヒエラルキーに亀裂を入れてしまうことだ。そして、結局、それはあり得なかった。 いや、そうなってしまった。 ヒラクスは、ほとんど前例のなかった場所で成功を収めた。世界を治める玉座を作り、取り憑かれたように知識の拡充へ邁進し、彼の敵に関する残酷極まりない真実を、その脳裏に刻みつけた。研究調査は、たがが外れた状態で進んでいった。 ネメシスの出現について話す時、子供たちは彼の名を口にしない。勇士達やらコルセアやらが吹聴したがるのは、ガスプラの大虐殺で彼が行った殺しについてだ。 ヒラクス、歪んだ者よ。ヒラクス、権勢の支配者よ。その舌鋒を武器とし、実験と称して敵対者の正気をねじ曲げ、心象を作り変え、もはや被験者ではなく道徳心に欠けた競りの道具にせしめるマインドベンダー。 警告は止まない。 フォールンが穢れの言葉で話すとき、その語りを聞いてはならない。かの声に囚われたなら、意志はかすみ、アンチテーゼに覆る。 そしてあなたも、劣等生でか弱かったあのフォールンのドレッグのように... 闇と孤独を知るだろう。 嘘に惑わされて「信用は盾。信用は急所。結局みんな、裏切り者になる。」C.C.ラグランジュ訳『フォールンの書ーー「入り組んだ岸辺」に関する覚え書きと観察』より抜粋 簡単な謎々を出しましょう。 「真実だけが、嘘を打ち破る力を持っています。では真実とは何でしょう?それは、誰の目から見た真実なのでしょう?」 バンベルガ小売商はどうでしょう?プシケの大量殺人鬼は?灰色リージョンのターミネーターも捨てがたい。シャドウベールの棘、旧バサのバンディット、ヴァリアンの束の間の安楽と恐怖を与えてくれるセイレーン... なんてね、これらの実態はみんな同じ。ただ1つの災厄にして、ありとあらゆる悲劇の裏に潜んでいるのは...? そう、あの嘘つき奇術師、雄弁なるアラスケス・ウィットです。 彼女がかつて、とある取引現場に連れてきたスパイダーは、すんでのところでその命を代償に支払うところでした。またある時は、およそ彼女ひとりしか得をしない儲け話に、まんまと10人ほどのバウンティハンターが乗せられてしまいました。アラスケスの手腕、口車、マインドトリックにまつわるエピソードには事欠きません。戦わずして勝ってしまう。彼女はそのような敵なのです。戦場で首を討たれた者と、彼女に寝首を掻かれた者、いったいどちらが多いことやら。 自分が何を知っていて、実は何を知らないか、本当は誰も分かっていません。お茶目な賢者は、そこを間違えないのです。 スコーンとされるバロンの中でも、警戒すべきはアラスケスです。真実を崩壊させるという、強大な武器を持っているのですから。はじめ彼女は、あなたに自信を与えます。そしてトランプを切るように、あっさりそれをシャッフルします。そして別の場合には、あなたに強い目的意識を持たせます。行動を悉く裏目に出させ、後悔のどん底に突き落とすためです。 もしもこの世界に神々なるものが存在するなら、彼女はきっと最初の悪魔。行動の予測など不可能で、不純で、あなたの肉体が滅ぶずっと前から、精神を舌先のオモチャにします。信じられないと言うのならーーまだ、彼女の欺瞞の巧を見くびっているのならーー自問自答してみてください。 あなたは彼女を「仕留めました」か?仕留めた場合、彼女は「死にました」か? どちらにもイエスと答えたあなた、既に彼女の術中です。 逆にもし... ...解説不要ですね、見込みのある御方。この荒々しい岸辺で、他の人よりは長く生き抜けるかもしれません。 天寿を全うとはいかないでしょうが。 十倍返し「誰かを傷めつけるような奴、もううんざりなんだよ。お前も含めて。ちなみにお前の「罰」、まだ終わってないからな?けどさ、いちど拷問の時にちょっとでも快感覚えちゃったら、もう俺たち...ケダモノだよな。堕ちるとこまで堕ちちゃった、っていうか。マトモになる努力、したほうがいいと思う?」 ハウス・オブ・ウルブズ終焉の数日間を目の当たりにしたのは、レクシス・ヴァーンだった。冷ややかな憎悪に突き動かされ、彼はサービターを狩り、屠り続けた。最後の1つの命が消え、狂ったハウスが瓦解するその時まで。 しかしレクシス・ヴァーンの怒りが、そこで収まることはなかった。彼の憤りを形作っていたのは、ウルブズのみではなかったから。ハウスの勢力図が生み出すしきたりに執着していた輩は、ひとり残らず敵だった。 レクシスは、ドレッグとして若い時分から「飢えていた」という。下層民でない子らが逞しく成長していく一方、彼や、彼の最も身近に居るきょうだいが抑圧されている現実を、苦々しい思いで見つめていた。いやしい子たち、哀れな子たち、いらない子たち...けれどレクシスは気づき、見抜いていた。アルコンの崇敬に嘘があることを。サービターが神の位に居座り、崇拝をその身に受けるのは、大衆をコントロールするための手段であることを。 おそらく過去に、フォールンの神学理論に大きな翳りの生じた時期があったのだろう。もはやその心配は無い。ハウスは戦火の中で分裂した。年老いた貴婦人がーーずっと前、俺をわざと無視してた奴だーー今や切羽詰まった表情で彼に歩み寄る。死にたくない!と。 底辺として虐げられる日々を通じ、レクシスの中では憎しみが育ち、そこにはある種の強さが芽生えていた。ひねくれた除け者たちの中で、彼が唯一共感できた皮肉は、自分たちを「スコーン(さげずれた者)」と呼ぶことだ。日ごと向けられる冷笑を、いっそ名誉勲章として身につけてやるのだ。そしてレクシスはレクシスで、怒りのはけ口を見つけていた。新しいきょうだいは、それを賞賛した。彼らはそれぞれ、個性豊かに狂っていた。みんながみんな少しずつ、ねじ曲がっていた。 レクシスがひと味違ったのは、彼らが正気を失う一方であったのに対し、その心と決意がぶれなかったことだ。徹底的に、苦しませて、殺す。それが俺の為すべき事。どす黒く染まった理性が捉えたのは、彼の認識を拒否した、まさにそのサービターだった。まさに、フォールンをフォールンたらしめてきた機械。 裂いて、刻んで、引きちぎって。メタルボディに対する彼の攻撃は、断末魔にも似た故障音が岸辺に、いやリーフに...星系全体にこだまするまで続いた。そして同じ事を、バロン達を拒絶したものすべてに繰り返した。彼の味わった苦しみを、十倍にして返す。 相手の目から生気が失われてゆく。それを見るのはとてもとても楽しかった。 明日に向かって目を閉じて「真っ先に引き金を引こうとするのは素人だ。獲物を仕留めるのは早撃ちじゃない。 目だ。集中した、鋭い目。あとは、「死」を感じるな。死はそこにある。それが分かっていればいい。それだけで、死の方から引き金に抱き着いてくる」 ビルファ・ファントム。ビルファ・ブラインド。全能の目を持つフォールン・バロンで射撃の名手だ。 アウォークンは「ヘルライズ渓谷のゴースト」は彼の仕事だと信じており、伝説的人物として扱っている。 ウルヴズの暴動時、彼は姿こそ現さなかったが、女王の宮殿に詰めた衛兵を抹消した功績は、ほぼ彼の物だとされた。目撃者は皆無だが、全ての狙撃が一発で決まっており、あまりに見事で、正確に致命傷を与えていたから。 まず、強さの秘密として、今のピルファはペアを組んで行動している。 二人ともなかなか性悪なので、きっと君には好かれない。最悪なのは二人そろった時だ。 悪魔、いや、地獄そのものとでも言おうか。只者でないことは一目でわかる。全身の血が煮えたぎり、好戦のオーラに満ちている。 視認イコール狙撃。 狙撃イコール死亡。 フォールンから彼らへの、技術供与の証左がある。別人――というよりもっと凄いものになる技術だ。 彼らの物理的な実態を、完全従属化したメカニクスと「結婚」させてしまうのだ。すでにタニクスという傭兵が実験を受けていた。 あれはフォールンというより、機械だ――双眸にフォールンの伝統的機械信仰に対する、強い嫌悪が見て取れた。 この二人とタニクスとスプライサーは、それぞれが自分の野望に駆り立てられた、ある種の危険因子たちだ。話し合いで妥協点を探るよりは、互いに得物をぶつけ合うほうがありえる。 ……見つけられるだろうか。せめてそう願おう。この恐ろしい、命とテクノロジーの癒着が偶然の産物にすぎませんように。 ラグドバレーの全力ライド「岸辺の気まぐれな満ち引きに、いくつもの命が飲まれてきた。動体は作用と反作用を生み、我々を引き込み、分かつ。 足元の地面すら、いつでも踏みしめられているとは限らない――一歩一歩、慎重に。ほかの危険に気を取られるな。 それでも死は纏わりつく。緩みはすれど解放はない。 落ち着ける場所まで辛抱せよ。この厄介な土地を歩きとおした者々と、抱擁を交わす日を待ちながら」 「ラグドバレー」は長くシビアな地形で、オマケに全く――従来の定義でいえば――谷ではない。岸辺の西端部に細長い空洞が延々と続き、小惑星がひっきりなしに降り注いでいる。 ライダー、ヤビクス。 「なぜ貴女は走るのですか?」――返ってくる答えは毎回違う。彼女は頭がイってるわけでも、自棄になっているわけでもない。バイクライダーとしてのスキルとか、破壊者ならではの意思とか、そんなところだ。 けれど彼女の走りは、美しい。生きているだけで物騒なビーストであることを差し引けば、どんなガーディアンにも劣らない伝説的な存在だ。記事にするならこうだろうか。 ある時、彼女はエーテルを追っていた。つまりは失われた黄金時代の技術を盗もうとしていた――それはクロヴィス・ブレイ社のものだったという証言もあれば、忘れられしウォーマインドのドライバーが持っていたんだという者もいた。あるいは単にガーディアンでも殺した後、リベンジを避けるためにフルスロットルでファイアチームから走り去っていたところなのかも……こんな辺境の地ではよくある話だ。それとも、誇り? 何人かのガーディアンにこの話を振ってみたが、大半の反応は冷ややかだった。「あんな恥ずべき――血塗られた手を持つスコーンのバロンを称賛して何になる。戦利品をごっそり積んで、トップギアでドヤ顔してるだけの女を」……称賛。そうだ、彼女には確かにその価値がある。あくまで個人的な見解だから、あとはマーカス・レンにでも聞いてくれ。 マーカス・レン――スパローレースのリーグチャンプにして英雄、そしてスピード狂。街中のレースで名をはせる男は、谷を走り抜ける事が出来なかった。 彼は再び立ち上がった。そして5度目の挑戦にして、あわや衝突かと思われたその時、狭窄した出口から姿を現した。やった! 不可能が可能になったのだ! それでも彼は頑なに、ヤビクスがこれを攻略可能とは思わないと言っていたけれど……まあ、いい。 弄られた真実「この地には、運命を自ら切り開き、明日を夢見る者たちがいる。信念に寄り頼むこの者たちは、今日を生き抜くことすら難しいのに」 マシーニストのことを知らない?そいつはちょっと世間知らずだ。都市で暮らす奴、リーフ、アウォークンの中で、あの女の罪は...まあ、不名誉な記憶にはなっていないかもしれないが、全員、あの長く続いた恐怖政治についてはよく知ってる。 あいつはエリクリス・バンディットとか、厄災のエリクリスなどと呼ばれてる。さげずまれたマシーニストで、色々と修理が得意で、ハウスのない仲間の中心的存在だな。 しかしこういった二つ名も初耳なんじゃ、他にも会ったほうがいい奴らがいるぜ。きっといい話が聞ける。あの悪どい女の仕業で、さんざん辛酸を嘗めてきたからな。 アラーハという男に会って、マシーニストの行動について尋ねろ。そうだな、アランの包囲攻撃がいい——奴ら船をハイジャックしたんだが、積んでた貨物も警備のガーディアンも、スコーンが盗んだり捕まえたりしちまったんだ。 バンガードには、ソリス・ディセントについて聞くんだ。たくさんのガーディアンが亡くなった。武器庫も貨物室から引っぺがされてたらしい。 階級の低いドレッグってのは、古い習慣に立ち向かっても、ただ見捨てられるのがオチだった。そんな奴らが虐げられた環境の中で彼女の強さを見りゃ、心強い家族が出来てもう一度勇気が湧いてくる、そんなもんなんだろうか。彼女も除け者なりに強く育ったもんだ。強く、意地悪くな。それで、生きる目的ってやつを見つけた。伝道者あたりを先導役にして、うんとヤル気のあるクルーを新しく仲間に入れるんだ。 で...ここからは自分で考えろよ... マシーニストの犯罪を知ったとき、バロンがとる行動は何か、知ってるか?ここまで築き上げた生き方を、昨日の今日で変えられるか? 俺たちの周りには、バンガードや、ファクションや、友達やら知り合いやら...そういう奴らがいて「見るべきもの」だけを示してる。バロンのことは語られない。警告なんて出されない。これって単に、危険としっかり向き合ってないだけじゃないか?あっちこっちで戦争してみたり、仲間内の興味で引きつけてみたり...もっと他に目を向けるべきものがあるんじゃないか。岸辺にだって、注意すべき脅威がいつもある。俺たちがそういうことを意識できるような、そういうガイダンスが欲しいんだ。与えられた導きだけでも、無数の命を... それか少なくとも、特別な命をひとつ救えるのかもしれないけどな... 信仰のゆくえ「自分の地位に栄誉を求めてはならない。支配を目論む者からの言葉や、贈り物にも求めてはならない。ただあなた自身のみ——あなたの行為、行動、そして魂に求めなさい。それ以外に見えるものは、すべて偽である。" フィクルルはアルコンであった。 そのままでは死んでいただろう。独り静かに、貴重なエーテルに飢えて。 けれど彼は生きながらえ、7名のスコーンという同士を見つけた。彼らと共に進むべき道を定め、力を得た。仲間の武勇伝が広まり始めると、彼の元には信奉者が集うようになり、彼自身も新たな真理に目覚めていった——あの追放は罰ではない、賜物だ、彼に確たる信念と、強い勇気を与えるための... フィクルルは狂信者としての自分に埋没していった。かつて自ら敬愛していた、その信条に異を唱えるアルコン。見下され、忘れ去られ、それでも長い間耐えればよかった。 フィクルルはドレッグであった。 追放前——進むべき道も確かでなかった頃——彼は祝福を受けた、フォールン信教のリーダーであり、その教えに耳を傾ける信者にとっての救い主であった。 アルコンは長い時をかけ、フォールン社会の中で地位を高めていったが、名声が向上するにつれ、大嵐後の彼らの役割に注目が集まるようになった。自暴自棄の気運が社会に満ち、最後のフォールンが救いを求め、競うように星間へ飛び出していった頃、民の機械への依存度は増長し、武器、飛行船、生命維持のためのサービターなど、必需品の領域まで根を下ろすようになった。 依存は崇拝に成り代わった。崇拝は信仰にとって代わった。サービターの献身の働きを監視していたアルコンは、希望をもたらす存在と見なされるようになった。その言葉、その教え、そして機械の願いと需要と欲望を解釈して聞かせることによって... フィクルルは別の道を見ていた。それは後に、彼と彼の仲間が地球で災いの地に降り立ち、信仰のより深い解釈を求めていた際、テクノ狂のスプライサーによって模倣され、ねじ曲げられてしまう道であった。 フィクルルは狂信者である。 見下され、見捨てられた。 彼は全霊をもって自身と道の回復を求めている。フィクルルは生存者である。壊れた地平のはみ出し祭司は、死の後にすべての栄光がやってくると説く。 フィクルルには、そして彼の考えに寄り添うはみ出し者たちには、機械がより優れた存在であると思えなかったのだ。機械は神でなく、道具だ。使い方を覚えて制御し、操作する、エリクスニーの誇りに供する器具であったはずだ。エーテルを求めて卑屈になる者があってはいけない。民の敬意が、工場生産された神さまに釘付けになってはいけない。 フィクルルの宗教的思索はまだまだ続く。もしも機械が——すべての実存を統制するあの物々が、道具であるなら、命がそうでない保証はどこにある?死がそうでない保証はどこにある? バロン達の精神的指導者たるフィクルルの衰勢から再起の時期には、たくさんの逸話が残されている。満身創痍のドレッグとして強さを求め苦しんだ話。自らの信仰を試すため、星系を巡った冒険譚。自分以外の「スコーン」との邂逅。そしてすべてを締めくくる、「父」との結びつき。しかしフィクルルが危機に立たされるとき、重要なのはただ1点だ。彼もまた、信仰より生まれ出でた者であること。 それは光の側に立つ者と、正反対の信仰だ。それは時に、武力を行使させてしまう信仰だ。そこに楯突く異教徒は、底なしの死の海で「洗礼」を受けた。彼らは止まらない。彼らは折れない。自分たちこそが正義だから。 そして敵対する者は、みな間違っているのだから。 さげずまれた者の道「生きていくのは簡単だ。邪魔者をすべて消せばいい」 サービターを集めはじめたのは、マシーニストのエリクリスだった。執行人のレクシスは、至る所でそれを壊した。この2人は相対する動機で動いている。1人は科学、信仰心など持ち得ない。もう1人は怒り、そして止めどない破壊衝動。 両者間には長いこと緊張感が張り詰めていた。それというのもレクシスが、マシーニストの作業所に忍び込む常習犯であったからだ。目的はそこでケージに入れられている、サービターを虐待すること。 彼らの精神的指導者たるファナティックであり、かつてアルコンプリーストでもあったフィクルルは、2人のいざこざを辛抱強く見守っていた。憤怒に芽吹く強さを眺めていた。火花と怒号の飛び交う光景ではあったが、それ以上に——新たな道が開けていると感じた。彼らの情熱を強め、さらなる高みへ導いてくれるかもしれない道だ。そのための諍いくらい大目に見よう。 そのようにチャンスをうかがっていたフィクルルだったが、件の2人はますますヒートアップし、バロンの絆を脅かしかねないところまできた。ある夜エリクリスが、小型サービターを1コンテナ分、執行人が「虐殺」しようと準備しているのを見つけてしまったのだ。「もう限界!」——そこにフィクルルが入ってきた。 彼はエリクリスに近づいて言った。「サービターを持ってきてごらん」レクシスが期待を込めて薄く笑う。エリクリスは躊躇した。待ち続けるフィクルル。「信じてくれないかい?」 エリクリスは包装を解いた。 フィクルルはその1体に近づき、エリクリスに向き直った。「たくさん集めたね、マシーニスト。何百体...いやそれ以上だ。私たちの物資、ひいては生命力は、従属型メカニクスによって供給されている」エリクリスはサービターを見て頷いた。それは少しだけ、アルコンの開いた腕へ近づいた。小さな子どもを受けとめるように、かつて崇められていたその球体を、フィクルルは優しく迎え入れた。 もう片方のバロンが叫び始めた。挑発のリズムで、何やら喧嘩腰に喚いている。 フィクルルはサービターにハグをした。柔らかな抱擁を与えつつ、次の声音は悲しげだった。「サービター、君はよく働いたけど...私たちの仲間としては力不足のようだ」「私たちは、私たちの敵を飢えさせなければならない。君が昔、そうされたようにね」フィクルルの前腕がぼやけはじめ、磨き抜かれた1対のショックブレードが、火花を散らして表出する。「私たちが皆、そうされたようにね」 サービターはアルコンの力強い上腕にしがみつきながらも、甲高い、痛みと混乱が交錯したような——いわばデジタルな苦悶の声をひとつ上げた。フィクルルの刃は外殻に収まり、体内の深部へと還っていった。最後に、しゅう、とエーテルの霧が上がる。 フィクルルは物言わぬ筐体を解放した。非生命体であるそれは、ごとりと地面に横たわる。彼はエリクリスに言った。「分かったかい?」彼女は破顔した。エリクリスは、興奮しすぎると冷静さを欠くきらいはあったが、もともと仲間内で一番聡明な子であった。 バロンは長きにわたり、アウォークンやリーフのフォールンにとって悩みの種であり続けてきた。だが悩みの種とは言いつつも、とりうる手段がゲリラ戦法に限られていたのも事実だ。フィクルルがたった今示して見せたのは、その現状に対する新しい道、というわけだ。 次はレクシスに歩み寄る。「分かったかい?」彼は答えた、というより吠えた。「全部ぶっ壊せよ!」 フィクルルは笑った。「一気に全部は、得策ではないよ。必要なくなった分から減らすんだ」 フィクルルが言葉を続けると、2人はにわかに活気づいた。「ハウスに隷属している、ありとあらゆるサービターが標的だ。最後に残すのは、私たちの生活に必要な分だけでいい」 狂気という名の贈り物「砥石の歌、と呼ばれるそれは、どこか痛々しいサイレンに似ている。甲高い響きに、むらのある音色。 こんな事が気にかかるのは私だけだろうか。 あの爆弾魔...「ボマー」はもともと狂気の輩だったのか?あるいは何かが、彼を狂気へと駆り立てたのか?それは「狂える」という才能なのか?それとも、呪いなのか? このハウスというシステムが生み出す構造、そして当たり前の日常。そこから飛び出し、生き抜こうとして戦い、彼は壊れた。何を見たのだろう。何をしたのだろう。あの岸辺から試練を受けるのは、まさにその場所をホームと呼ぶ者たちだ。大多数は、単純に、死ぬ。殺伐の土地が冷酷な意思を持って、それを為す。そうでなければ、細分化された広大な縄張り候補を狙う、札付きの「代理人」が手を下す。無法者に殺し屋、カニバリズムの実践者、アウォークンのパトロールに...ガーディアンと呼ばれる「英雄」。 このいわくつきの入り組んだ岸辺で命を捨てる方法はいくらでもある。それらに抗うことは容易ではない。ましてやその後に自我を保っていられれば、ほとんど奇跡だろう。 だが...ボマーは生まれつきそうだったのではないか?狂人。精神異常者。破滅を渇望し、混乱とそれに続く滅亡を求める者。 降着フィールドの乱発に、起源書庫の爆撃。カニクスは、もはや手のつけられないリーフの敵であるかと思えば、見下されていたきょうだいの心強い味方となって動くこともあった。絆で結ばれた者たちのために戦うことで、彼は強くなり、自身に欠けていた「戦う意味」を見いだしもした。けれど彼のやった事は、数え切れないほどの悲劇を生んでいる。 以上のような...狂気の誕生に関する考察を経て、長年引きずっていたある思いが、いま私の中で頭をもたげている。 アウォークンのライブラリーを探したい。リーフの、いや、岸辺についての知識を持つクリプトアーキと話し、ボマーの行動記録を洗いざらい調べたい。ボマーの破壊活動で焼け苦しんだ人々と、同じ痛みを味わいたい。戦場を忘れたくない。かのライブラリーが焼け落ちた、空前絶後の喪失を追憶して涙したい。 邪悪な化け物について見聞を広め、愉悦に浸る...ガーディアンの目をかいくぐって、そんなひとときを自分に許すのだ!まあ、ここでニヤニヤするのも大概にしておこう。なにせ私が語らんとする真実は、まだ明らかになっていないのだし、それに... 爆弾魔カニクスは、この世を去った。岸辺は変わらぬ姿でここに在るのに。カニクス、君はあれほど勇猛で、努力家で、信じられないほど強かったのに! なあ、もしも岸辺が「いわくつき」のままで、その境界は絶えず揺らいでいて、悲愴の舞台であり続けているなら...君以外の誰が、そこに狂気をもたらすのだろう?長らく行方知れずだった、かの黄金時代の初期生存者か。お次はどこぞのアウォークン、番狂わせにフォールン... そしたら今度は光の戦士、ガーディアンの登場だ。 要はどんどん来るってことさ。そうすればもう、君が正しいかどうかなんて関係ない。賭けは着々と、岸辺に有利になっていく。狂気に有利になっていく。 ガーディアン。最後のひとりになったとしても、お前はお前でありたいか? 英雄不在都市の壁の向こう側は、1ミリの隙も無く危険地帯だ。安全の保証はない。その死にかけの——一部もう死んでる——世界のどこをとってさえ、入り組んだ岸辺を一歩歩くよりはまだマシだ。 人の手で整備されてないってだけじゃない、無法者の縄張りなんだ。悪党の中の悪党たちが、大金を見つけるとか、「商売」のためとか、あとは大罪犯して逃げてくるとか、そんな理由でやってくる。 岸辺の岩場を渡って、無事に帰ってこれた奴はいないよ。通るだけでいくつか法を破らなきゃならない。良心が痛むって?捨てとけ、まともな心なんか。まともな事をしようとするだけで、命が終わるような場所なんだ。じゃなきゃ器用になれ、まともな事を、まともじゃない方法でやり遂げられるぐらい。 とにかく、堂々と歩け。ここに住み着いてるような奴らは、弱気な一般人なんかすぐに見抜く。道を譲るな——背中を向けたら、後ろからグシャっといかれるだけだ。それから、銃の狙いは正確に。ミス1つが命取りだ。以上、無理そうなら帰れ。 岸辺はな、英雄どのが来るような場所じゃないんだよ、いろんな意味で。 死に至る孤独「ここじゃ一匹狼は絶滅種だ。誰もが生存本能にせっつかれて、孤独であることを手放していく。 "自分の心に聞いてみろ。心がノーと言えば頭に、そいつも頑固なら魂に。魂がいちばん、根本的な真実とつながりが深い。明日という日を生きたいなら、今日という日を戦わねばならん。 "そのことを頭に入れて、理解して、体感しろ。馬の合う、手を組めそうな奴を見つけるんだ。そうして初めて、命を手の届くところに置いておける。誰の手も引かずに岸辺を歩くのは、死を手繰り寄せてるのと同じだから」 C.C.ラグランジュ訳『フォールンの書——「入り組んだ岸辺」に関する覚え書きと観察』より抜粋 エルレッド・ラッシュに関する悲話「エルレッドラッシュの話をしてやろう。奴は危険を顧みずにここを出て行くことはしなかった。馬鹿な奴じゃなかったし、厄介ごとが待ち受けてるって分かってたんだ。何も気にせず過ごしてた。気にしたところで、どうにもできなかったかもしれないが。 "奴は金鉱を探してた。ここに金が埋まってるはずだって、辺りをほじくり返して暮らしてた。でも本当の目的は、もっと個人的で、純粋なやつだった。死んで、埋もれた仲間を探してたんだ。エルレッドがあの奥地まで入っていった最初のガーディアンだっていう奴もいる。事実はそうじゃないが、そのほうが話としてしっくりくるし、伝説と呼ぶにもふさわしいな。 "ぐるぐる、ぐるぐる。ひとりぼっちのエルレッドは、岩のふり注ぐ大地をあるきまわりました。むちゃなことはできるだけ避けましたが、必要となればいつでもやり返しました。やさしい人でしたが、イライラした時は暴力にうったえることもありました。 "そしてとうとうエルレッドは、探していた場所を見つけました。おおむかしの崩壊から生き残った人びとが、最期に身をよせあった場所でした。かれが全てを失った場所でした。なにが起こったのかも分からぬまま、死んだ人たちを埋めていった場所でした。もう、昔々の話です。きちんと思い出すことはできませんでした。でも心は覚えていました。 "そして二度と、エルレッドを見た者はいませんでした」 C.C.ラグランジュ訳『フォールンの書——「入り組んだ岸辺」に関する覚え書きと観察』より抜粋 撃てばいいってもんじゃない銃撃戦の状況を見極める時、考えることは大量にある。たいていの撃ち手はひたすら、神経を高ぶらせないこと、冷酷な目線を保つことに集中する。それも大事なことではあるが、やり手の中でも別格な奴は、はるかに多くの要素に気を配っている。 「空の光量、あるいは翳り具合。気温の高低、風向きと風速。まだまだあるぞ。足下。土壌はしっかりしてるか、軟弱か?足場は動いていないか、滑らないか?こういったことは全部、土壇場で効いてくる。 「ホルスターの損耗に、銃の微妙なグリップ感。 "まあ、本物のやり手から真っ先にもらう助言としては、勝負は必ず慣れた道具で受けること、だろうな。状況的にやらざるを得ないとか、そこに名誉がかかってるとかでない限りは」 C.C.ラグランジュ訳『フォールンの書——「入り組んだ岸辺」に関する覚え書きと観察』より抜粋 |
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