話を膨らませた語りもまた乙なもの。
「書記官エイド?」通常はケルの職務である報告書や書類の作成を延々と繰り返していたエイドはデータパッドから顔を上げた。するとクロウが部屋の入り口に立っているのを目にして驚いた。「ベラスク」とクロウ。エイドは勢いよく立ち上がり、挨拶を返した。「何か御用でも?」エイドは聞いた。「挨拶したかっただけですよ」グリントがクロウの肩口から顔をのぞかせて言った。「そうなの! …こんにちは!」 「どうも!」グリントは明るく答える。クロウは決まり悪そうににやりと笑った。「我々は… 別の人生で会ったことがある。他の子供たちと一緒によく話をしてやったものだ。子供たちはこれくらいの背丈だった」と言いながら膝の高さを示し、「君はこれぐらいだった」そう言って肩の高さを示す。「そうね!」エイドは嬉しそうに言った。「ユルドレン王子はいろんな話を聞かせてくれた。とても勉強になったわ」彼女は、彼の声、しぐさ、身振りを思い出した。懐かしい思い出だ。「あなたがまた物語を語りに来てくれたら、子供たちがきっと喜ぶ」エイドは続けた。「教育にもすごく良いはず。知ってると思うけど、私たちは同じ伝承を持っているの」エイドの4つの目が輝いた。「それに、あなたが演じるミスラークスケルを聞いてみたいわ。きっとすごく上手だと思うし」クロウはうなずきながら笑顔を見せた。「異文化交流だと思ってくれ」彼は言った。エイドは激しくうなずいたが、そのあとに硬直した。「ああ! 私ったら、無礼なことを」恥ずかしそうに彼女は大声で言った。「何か飲み物でも? エリス・モーンからもらったお茶がいろいろあるの。匂いがそこまで強くないのもあるけど」 彼女がやかんに手を伸ばそうとすると、エイドのデータパッドが軽い音を立てた。彼女はその音が嫌いになっていた。「ごめんなさい」彼女は申し訳なさそうに言った。「邪魔して悪かったな」そう言い、クロウは立ち去ろうと振り向いた。 「ずいぶん昔のことだけど」エイドが呼びかけた。「あれからたくさんのことがあった。でも覚えていてくれてうれしいわ」彼女の体は一瞬こわばったが、クロウがニヤリと笑い肩をすくめて言った言葉で緊張を解いた。「忘れられるわけがない」
※計算式不明瞭につき大雑把な値です
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