掘れば跡が残る。
もうすぐ終わる――カドマス・リッジを登るにつれ、トレスティンはそう感じた。雪で増幅した日光が彼女の目を突き刺す。雲の上まで到達したのだ。彼女は視線を下にやり、眼前の岩山を見つめた。次の岩棚へ手を伸ばすと、筋肉が硬直した。今更後戻りはできない。無線から聞こえるサラディン卿の声が雑音混じりになった。「カバルの侵入… ベックス… 前方」トレスティンのゴーストが無言で電源を落とした。鉄の豪傑の命令を実行する者は他にも近くにいる。彼が見逃すことはないだろう。従わない者はいないだろう――特に、彼女の元チームメイトなら。サッジが「私たちは暗黒の手前にいる境界線の役割を果たすべきだ、この裏切り者!」と言ったとおり、彼女は仲間を裏切った。|| 実に細い線だ。なら、なぜそれを飛びこさない? ||彼らがその素質を持っていなかったからだ。彼女自身の手でそれは確認した。確証を得るためにどちらもかち割り深く探った。だが、なかった。エウロパの氷の殻の下に潜む海のような、埋もれた巨大な飢え。表面からは検知できないが容赦なく引き寄せてくる激流。彼女は誰も裏切るつもりはなかった。ただ解放したいだけだった。|| もうすぐ、お前も手に入れられる。もうすぐ、お前は解放される。 ||疲労で震える筋肉に堪え、手を押し上げて、やっとのことで雪を掴んだ。彼女は頂上にたどり着いたのだ。少しの間、彼女は荒くなった呼吸を落ち着かせるように堤防で寝そべった。視覚が明確になると彼女は息を呑んだ。輝くばかりの白に浮かび上がる黒い石。彼女の心臓の動きに合わせるように鼓動しているようだった。奥底に潜む欲望に同調するように。心の奥から温かい、聞き覚えのある声が聞こえてきた。「バカだな」ヤラだ。突如、彼女の中で小さくも顕著な飢えが芽生えた。これは… 寂しさだろうか?|| 弱さだ。お前の眼前にあるのは力だ。|| 鼓動がさらに大きくなった。全身の血管に血が流れているのを感じながら、オベリスクへ近づいて手を伸ばした。こんなに近づいたのは初めてだ―― 「それ以上はダメだ」新たな声がトレスティンに呼びかけた。ただし、今回は頭の中からではなかった。振り返ると、数メートル先に剣を抜いたウォーロックが立っていた。「トレスティンだな。私はオノール。こちらに付いてこい。大人しく」トレスティンは彼女を見て、オベリスクの方へ飛んだ。最後に彼女が感じたのは鋼だった。純粋な、冷たい鋼が、彼女の心臓を貫いた。
※計算式不明瞭につき大雑把な値です
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