Destiny2 デスティニー2 まとめ Wiki

エントロピーの教訓: いずれすべては静止する。

走り出した彼女の後ろで、シミュレーションの糸が切れ始める。彼女には焼けつくような肺も、疲労を感じる筋肉もない。思考が駆け巡り、決断が下されると同時に彼女は逃げ出す。
首枷は彼女の首の後ろを重く圧迫している。首枷が理解不能な騒音を立てる。今や、テカルを理解することは、点滅する切れかけの電球で送られてきたモールス信号を読み取るようなものだ。
アスファルト、モロコシ属、水、そしてガラスが走る彼女の足元に映し出される。一歩踏み出すごとに、新たな世界が現れる。彼女は何から逃げているのか。
失敗ではない。一時的な躓きに過ぎない。
残響が彼女の期待を裏切ったのだ。テカルの助言と意志は役に立たなくなってしまった。失敗したのは残響とテカルだ。欠点のない本質まで削ぎ落された、真な彼女が失敗するはずがない。
誤りがあったとするなら、それは道具を信頼しすぎたことだ。同じ過ちは二度と繰り返さない。
指が痙攣し、彼女は最も近い道具がどこにあるのかを把握する。彼女は道具がある方向を向き、真鍮が埋め込まれた石の上を歩き始める。
13体の口を持たないホブゴブリンが歌っている。頭は小型のハーピーだ。オラクルの透き通った高音でホブゴブリンの作業を称賛している。
ホブゴブリンは劇場を建造したようだ。彼らの周りに、弧を描くようにして観客席がせり上がっていく。観客はただひとり。彼女だけだ。
鳴るはずのない音が響く。1体のホブゴブリンが列から出て、もう1体のホブゴブリンを押して罰を与える。その手にはガラスが握られている。
唐突にホブゴブリンたちの小競り合いが始まった。道具たちは驚きながらも、楽しんでいるようだ。普段とは違う体験ができればそれでいいのだろう。
道具たちは規律を失っている。彼女の道具は自壊してしまった。
だからこそ、新しい道具が必要だ。
背中が疼いている。彼女はネットワークへの通路を開き、姿を消す。