冷たさに限界はない。
彼女は渓谷のくぼ地にある大きな砂岩の陰にしゃがみこみ、必死に意識を集中させようとしていた。彼女は下の2つの手を合わせて強く握りしめた。プレッシャーが彼女に重くのしかかり、胸部から流れ出る血のことすら忘れていた。彼女にはベックスが近づいてきていることが分かっていた。その金属の足が石に当たって甲高い音を立てている。彼女が上の手を上げると、スプライサー・ガントレットからいくつもの細長い軸が現れて回転し始めた。彼女は近くに存在する光をイメージした――彼女の背後にある岩に銃弾が当たり、彼女は一瞬たじろいだ。そして岩が割けるその瞬間に振り返り、吹き飛ぶ熱い砂と息を詰まらせる塵越しに、軍隊を睨み付けた。彼女は目を閉じた。真紅と白の閃光を発するベックスの標的フィールドが自分を向けられる光景を彼女は目にした。そのフィールドを手で振り払うと、放たれた100発の弾丸が大きく脇へとそれた。彼女はベックスの形をした複数の割れ目が背後に出現するのを感じ取り、それらをひとつに統合した。するとその場所で全てのベックスが具現化し、融合した金属の塊が大きな音を立てて地面に倒れた。彼女は敵が作り出した光り輝くフィールドを一瞥した。全ては光の意思だ、と彼女は考えた。ベックスが再び一斉攻撃したが彼女には命中しなかった。手首のガントレットが甲高い音を立てると同時に、小さなポータルが彼女の目の前の空間に姿を現した。彼女は中に手を伸ばすと、不安定な表層合流点キューブの親しみ深い形に触れ、それを手の中で潰す光景をイメージした。眩い光によって赤い瞳の視界を奪われたベックスたちは、密集陣形で前進しながら手探りで標的を探した。脇へ避けた彼女の横をベックスたちが通り過ぎた。最後のミノタウロスが渓谷から出たところで、彼女は再びポータルの中に手を伸ばした。彼女はその指先で彼らの知るミスラークスの姿に触れた。彼のスキフが見えた。それは氷の大地の上を飛んでおり、エウロパにいる複数のベックスの精神に取り込まれていた。彼女はベックスの意識をガラスの飛行機として描き出し、それが割れて粉々になる姿をイメージした――そのポータルの中で、複数の黒い糸が彼女の手首に巻き付いた。彼女は、その糸がぷっつりと切れる姿をイメージしながら手を引き抜こうともがいたが、それはまるで黒色粘性物質のピッチのように彼女にまとわりついた。彼女には、それが残酷な光に照らされて崩壊する姿が見えたが、その塵は彼女の血を吸収すると、乾いて彼女の手にこびりついた。光は見えたが、彼女に感じることができたのは、冷たい暗闇が周りを凍り付かせ、自分を縛り付ける感覚だけだった。遠くで、ベックスたちの意識がひとつの標的に向けられた。
※計算式不明瞭につき大雑把な値です
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