伝承/無法地帯のフロンティア のバックアップ(No.5)
危険地帯
「現実をしっかり見ることだ。あの岩々や金属体は、雨あられと降り注いでくるおそれがある。こっちからの制御は不可能だ。何でもありな現場だな。犯罪の根絶もできそうだ。法律を一切なくせばいい。唯一絶対の正義についても教えてやろうか?7番目のラッパが鳴ったらな。 "じゃ、行くぞ。気をつけてな。頭は旋回砲に、手は柄に。うすうす感じてるだろうが、この視線...殺る気満々で細めた目から出てるっぽい眼光が、お前さんの心臓か頭を狙ってる。もしくは顔に泥を塗るのを狙ってる。 "それからトリビア。今こうやって歩いてんのは血まみれの大地だ。この岸辺は、言ってみれば廃墟だ。ここに住み着こうとした奴らもいたからな。つかの間のフロンティアだった。失われた時代ってやつのまさに暮れ時、希望がひっくり返ってただの休憩所になっちまった。しかも人生の最期に一回しか使えねーじゃねえか、墓場って。 "たまに、姿は見えないがこの世のもんじゃない叫び声だか木霊が聞こえるって奴がいる。怖がる必要は無え。だいたいサポーターが屈伸運動してるとか、古い機械部品がそよ風で軋んでるとか、石とあと何かがすり潰されて叫んでるとか、誰かが警告を発してるとか、そんなとこだ。 "本繋留地、砂州複雑にして安全と言えず」 C.C.ラグランジュ訳『フォールンの書ーー「入り組んだ岸辺」に関する覚え書きと観察』より抜粋 「これは本当にフォールンの書か?誤訳じゃないのか?」ーーケイド6 汝、舌で心を折る者よ
「こんな所でも、囁きは耳を離れない。おぼろげだが、確かに聞こえる」 あるドレッグが落ちた。なすすべ無く、あとは死を待つばかりだ。そこへ、救済に向けて針路をとった「元」海賊がいた。彼にもかつて、エーテル欲しさに共に月へ乗り込んだ仲間たちがいたから。けれど現実は甘くなく、救われたのは片方だけだった。 ヒラクス、小さき者よ。ヒラクス、臆病なる者よ。弱者はヘルマウスの奥底に失われた。生なき者の留まる虚ろに、ひとりの漁り屋が住んでいる。彼がなぜ生きながらえたか、未だに語られたことはないが、それはきっと奇跡に奇跡が重なったーーヒラクス自身にしか知り得ない物語だ。 秘密をひとつ挙げるなら、彼のその強さだろう。 劣等生でか弱くて、哀れで惨めなヒラクスは、地獄の洞から出てきたときには確たる変貌を遂げていた。フォールンであることに変わりはない。孤独であるのも同じだ。しかしその目で見たもの、学んだものが悉く彼を変えた。内向の影はなりを潜め、想像を絶する全き悪夢の只中を、陶然としてふわりふわりと彷徨っている。 ヒラクスは苛酷な土地に身を隠し、ワールドグレイブに関する謎を調べ上げることに時を費やしているのだ、と言う者もいる。またある者は、いいや奴は憎き神殿を睨みつけるうち、えも言われぬ嫌悪感の中に、真実を告げる囁き声を奈落の底から聞いたのさ、などと勘繰ってみせる。 彼だけが真相を知っている。それは単純であり、同時に難解だ。彼らの推理は当たっていたのだ...どちらとも!ヒラクスは調べていた、ワールドグレイブのことを。ヒラクスは聞いていた、その囁く微かな声を。ただ双方とも、その後の出来事がすべて起こってからだった。 下層民たるドレッグが階級制度を逸脱し、バロンとして立ち上がることは、容易く起こせる行動ではない。けれどさらにあり得ないのは、フォールンらがそれぞれの地位を顧みず、自分たちの知らされている世界と、もっと上の階級が見ている地平を隔てる知のヒエラルキーに亀裂を入れてしまうことだ。そして、結局、それはあり得なかった。 いや、そうなってしまった。 ヒラクスは、ほとんど前例のなかった場所で成功を収めた。世界を治める玉座を作り、取り憑かれたように知識の拡充へ邁進し、彼の敵に関する残酷極まりない真実を、その脳裏に刻みつけた。研究調査は、たがが外れた状態で進んでいった。 ネメシスの出現について話す時、子供たちは彼の名を口にしない。勇士達やらコルセアやらが吹聴したがるのは、ガスプラの大虐殺で彼が行った殺しについてだ。 ヒラクス、歪んだ者よ。ヒラクス、権勢の支配者よ。その舌鋒を武器とし、実験と称して敵対者の正気をねじ曲げ、心象を作り変え、もはや被験者ではなく道徳心に欠けた競りの道具にせしめるマインドベンダー。 警告は止まない。 フォールンが穢れの言葉で話すとき、その語りを聞いてはならない。かの声に囚われたなら、意志はかすみ、アンチテーゼに覆る。 そしてあなたも、劣等生でか弱かったあのフォールンのドレッグのように... 闇と孤独を知るだろう。 嘘に惑わされて
「信用は盾。信用は急所。結局みんな、裏切り者になる。」C.C.ラグランジュ訳『フォールンの書ーー「入り組んだ岸辺」に関する覚え書きと観察』より抜粋 簡単な謎々を出しましょう。 「真実だけが、嘘を打ち破る力を持っています。では真実とは何でしょう?それは、誰の目から見た真実なのでしょう?」 バンベルガ小売商はどうでしょう?プシケの大量殺人鬼は?灰色リージョンのターミネーターも捨てがたい。シャドウベールの棘、旧バサのバンディット、ヴァリアンの束の間の安楽と恐怖を与えてくれるセイレーン... なんてね、これらの実態はみんな同じ。ただ1つの災厄にして、ありとあらゆる悲劇の裏に潜んでいるのは...? そう、あの嘘つき奇術師、雄弁なるアラスケス・ウィットです。 彼女がかつて、とある取引現場に連れてきたスパイダーは、すんでのところでその命を代償に支払うところでした。またある時は、およそ彼女ひとりしか得をしない儲け話に、まんまと10人ほどのバウンティハンターが乗せられてしまいました。アラスケスの手腕、口車、マインドトリックにまつわるエピソードには事欠きません。戦わずして勝ってしまう。彼女はそのような敵なのです。戦場で首を討たれた者と、彼女に寝首を掻かれた者、いったいどちらが多いことやら。 自分が何を知っていて、実は何を知らないか、本当は誰も分かっていません。お茶目な賢者は、そこを間違えないのです。 スコーンとされるバロンの中でも、警戒すべきはアラスケスです。真実を崩壊させるという、強大な武器を持っているのですから。はじめ彼女は、あなたに自信を与えます。そしてトランプを切るように、あっさりそれをシャッフルします。そして別の場合には、あなたに強い目的意識を持たせます。行動を悉く裏目に出させ、後悔のどん底に突き落とすためです。 もしもこの世界に神々なるものが存在するなら、彼女はきっと最初の悪魔。行動の予測など不可能で、不純で、あなたの肉体が滅ぶずっと前から、精神を舌先のオモチャにします。信じられないと言うのならーーまだ、彼女の欺瞞の巧を見くびっているのならーー自問自答してみてください。 あなたは彼女を「仕留めました」か?仕留めた場合、彼女は「死にました」か? どちらにもイエスと答えたあなた、既に彼女の術中です。 逆にもし... ...解説不要ですね、見込みのある御方。この荒々しい岸辺で、他の人よりは長く生き抜けるかもしれません。 天寿を全うとはいかないでしょうが。 十倍返し
「誰かを傷めつけるような奴、もううんざりなんだよ。お前も含めて。ちなみにお前の「罰」、まだ終わってないからな?けどさ、いちど拷問の時にちょっとでも快感覚えちゃったら、もう俺たち...ケダモノだよな。堕ちるとこまで堕ちちゃった、っていうか。マトモになる努力、したほうがいいと思う?」 ハウス・オブ・ウルブズ終焉の数日間を目の当たりにしたのは、レクシス・ヴァーンだった。冷ややかな憎悪に突き動かされ、彼はサービターを狩り、屠り続けた。最後の1つの命が消え、狂ったハウスが瓦解するその時まで。 しかしレクシス・ヴァーンの怒りが、そこで収まることはなかった。彼の憤りを形作っていたのは、ウルブズのみではなかったから。ハウスの勢力図が生み出すしきたりに執着していた輩は、ひとり残らず敵だった。 レクシスは、ドレッグとして若い時分から「飢えていた」という。下層民でない子らが逞しく成長していく一方、彼や、彼の最も身近に居るきょうだいが抑圧されている現実を、苦々しい思いで見つめていた。いやしい子たち、哀れな子たち、いらない子たち...けれどレクシスは気づき、見抜いていた。アルコンの崇敬に嘘があることを。サービターが神の位に居座り、崇拝をその身に受けるのは、大衆をコントロールするための手段であることを。 おそらく過去に、フォールンの神学理論に大きな翳りの生じた時期があったのだろう。もはやその心配は無い。ハウスは戦火の中で分裂した。年老いた貴婦人がーーずっと前、俺をわざと無視してた奴だーー今や切羽詰まった表情で彼に歩み寄る。死にたくない!と。 底辺として虐げられる日々を通じ、レクシスの中では憎しみが育ち、そこにはある種の強さが芽生えていた。ひねくれた除け者たちの中で、彼が唯一共感できた皮肉は、自分たちを「スコーン(さげずれた者)」と呼ぶことだ。日ごと向けられる冷笑を、いっそ名誉勲章として身につけてやるのだ。そしてレクシスはレクシスで、怒りのはけ口を見つけていた。新しいきょうだいは、それを賞賛した。彼らはそれぞれ、個性豊かに狂っていた。みんながみんな少しずつ、ねじ曲がっていた。 レクシスがひと味違ったのは、彼らが正気を失う一方であったのに対し、その心と決意がぶれなかったことだ。徹底的に、苦しませて、殺す。それが俺の為すべき事。どす黒く染まった理性が捉えたのは、彼の認識を拒否した、まさにそのサービターだった。まさに、フォールンをフォールンたらしめてきた機械。 裂いて、刻んで、引きちぎって。メタルボディに対する彼の攻撃は、断末魔にも似た故障音が岸辺に、いやリーフに...星系全体にこだまするまで続いた。そして同じ事を、バロン達を拒絶したものすべてに繰り返した。彼の味わった苦しみを、十倍にして返す。 相手の目から生気が失われてゆく。それを見るのはとてもとても楽しかった。 明日に向かって目を閉じて
「真っ先に引き金を引こうとするのは素人だ。獲物を仕留めるのは早撃ちじゃない。 目だ。集中した、鋭い目。あとは、「死」を感じるな。死はそこにある。それが分かっていればいい。それだけで、死の方から引き金に抱き着いてくる」 ビルファ・ファントム。ビルファ・ブラインド。全能の目を持つフォールン・バロンで射撃の名手だ。 アウォークンは「ヘルライズ渓谷のゴースト」は彼の仕事だと信じており、伝説的人物として扱っている。 ウルヴズの暴動時、彼は姿こそ現さなかったが、女王の宮殿に詰めた衛兵を抹消した功績は、ほぼ彼の物だとされた。目撃者は皆無だが、全ての狙撃が一発で決まっており、あまりに見事で、正確に致命傷を与えていたから。 まず、強さの秘密として、今のピルファはペアを組んで行動している。 二人ともなかなか性悪なので、きっと君には好かれない。最悪なのは二人そろった時だ。 悪魔、いや、地獄そのものとでも言おうか。只者でないことは一目でわかる。全身の血が煮えたぎり、好戦のオーラに満ちている。 視認イコール狙撃。 狙撃イコール死亡。 フォールンから彼らへの、技術供与の証左がある。別人――というよりもっと凄いものになる技術だ。 彼らの物理的な実態を、完全従属化したメカニクスと「結婚」させてしまうのだ。すでにタニクスという傭兵が実験を受けていた。 あれはフォールンというより、機械だ――双眸にフォールンの伝統的機械信仰に対する、強い嫌悪が見て取れた。 この二人とタニクスとスプライサーは、それぞれが自分の野望に駆り立てられた、ある種の危険因子たちだ。話し合いで妥協点を探るよりは、互いに得物をぶつけ合うほうがありえる。 ……見つけられるだろうか。せめてそう願おう。この恐ろしい、命とテクノロジーの癒着が偶然の産物にすぎませんように。 ラグドバレーの全力ライド
「岸辺の気まぐれな満ち引きに、いくつもの命が飲まれてきた。動体は作用と反作用を生み、我々を引き込み、分かつ。 足元の地面すら、いつでも踏みしめられているとは限らない――一歩一歩、慎重に。ほかの危険に気を取られるな。 それでも死は纏わりつく。緩みはすれど解放はない。 落ち着ける場所まで辛抱せよ。この厄介な土地を歩きとおした者々と、抱擁を交わす日を待ちながら」 「ラグドバレー」は長くシビアな地形で、オマケに全く――従来の定義でいえば――谷ではない。岸辺の西端部に細長い空洞が延々と続き、小惑星がひっきりなしに降り注いでいる。 ライダー、ヤビクス。 「なぜ貴女は走るのですか?」――返ってくる答えは毎回違う。彼女は頭がイってるわけでも、自棄になっているわけでもない。バイクライダーとしてのスキルとか、破壊者ならではの意思とか、そんなところだ。 けれど彼女の走りは、美しい。生きているだけで物騒なビーストであることを差し引けば、どんなガーディアンにも劣らない伝説的な存在だ。記事にするならこうだろうか。 ある時、彼女はエーテルを追っていた。つまりは失われた黄金時代の技術を盗もうとしていた――それはクロヴィス・ブレイ社のものだったという証言もあれば、忘れられしウォーマインドのドライバーが持っていたんだという者もいた。あるいは単にガーディアンでも殺した後、リベンジを避けるためにフルスロットルでファイアチームから走り去っていたところなのかも……こんな辺境の地ではよくある話だ。それとも、誇り? 何人かのガーディアンにこの話を振ってみたが、大半の反応は冷ややかだった。「あんな恥ずべき――血塗られた手を持つスコーンのバロンを称賛して何になる。戦利品をごっそり積んで、トップギアでドヤ顔してるだけの女を」……称賛。そうだ、彼女には確かにその価値がある。あくまで個人的な見解だから、あとはマーカス・レンにでも聞いてくれ。 マーカス・レン――スパローレースのリーグチャンプにして英雄、そしてスピード狂。街中のレースで名をはせる男は、谷を走り抜ける事が出来なかった。 彼は再び立ち上がった。そして5度目の挑戦にして、あわや衝突かと思われたその時、狭窄した出口から姿を現した。やった! 不可能が可能になったのだ! それでも彼は頑なに、ヤビクスがこれを攻略可能とは思わないと言っていたけれど……まあ、いい。 弄られた真実
信仰のゆくえ
さげずまれた者の道
狂気という名の贈り物
英雄不在
死に至る孤独
エルレッド・ラッシュに関する悲話
撃てばいいってもんじゃない
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